『韓国の渓魚ヨルモゴとサンチョノ』


  橋本 祐一郎(SMITH STAFF)



 秋が深まる10月下旬、日本列島に台風27号と28号が接近していた頃、翌日のフライトに向け荷物の最終チェックをしていた。26日から30日の5日間のスケジュールでお隣の韓国に釣行するためである。普段出張で休日出勤した分の代休とはいえ、僕が不在の間サポートしてくれる会社の上司、同僚には感謝しなくては....


 台風がうまく逸れてくれた為、無事に飛行機は飛んでくれた。思えば釣行を決めたのも3週間前でパスポートの有効期限が切れていたし、現地でレンタカーを借りて釣りをしたかったので国際免許証も取得せねばならなかったため、すべてがドタバタの始まりでした。

 韓国に旅行すること自体初めてのことで、事前情報もインターネットの情報のみ。釣り関係の情報として、日本のように内水面に漁協が存在せず、釣り禁止場所や立ち入り禁止場所はあるものの、禁漁期間が無いこと。韓国の北東部、江原道の渓流には2種類のトラウトが生息しており、分水嶺を岐点として、ソウルなどのある西海岸側にはレノック(コクチマス)、東海岸(韓国では東海と呼ばれている日本海側)の河川にはサンチョノと呼ばれるヤマメが生息している。今回、願わくば分水嶺を探し出し、両方の鱒を釣ってみたいというのが狙いだ。

 ハングルは全くわからないので(釣り禁止)、(立ち入り禁止)という文字だけ記憶しておいた。2018年には冬季オリンピックが開催されるような寒い地域のため、日本より季節の進行は早く、産卵期は終わりアフターになっていることが予想される。


 現地でのベースとしたのがソウルからリムジンバスで2時間ほどの春川市にある土夜ペンションさん。ご主人は過去に日本企業を相手に繊維関係のビジネスをしていたので、日本語はペラペラ。レンタカーの手配までしていただきました。

 24時間オンドルという床暖房がされており、快適に体を休めることができた。また、部屋ごとにフリーWi-Fi 完備。僕が用意していたWi-Fiルータはソウルではつながったものの、地方都市では役に立たなかったため、宿泊先でネットがつながったことは地図を確認したりする上でも非常に便利だった。

 ゆっくり眠った到着日の翌日は午後から借りたレンタカーで市内を慣らし運転。右側走行と現地語のカーナビ操作にもなんとか慣れて、いよいよ明日からは早朝より釣り開始である。


 28日早朝に到着したのはペンションから1時間ほど車で走った、朝鮮半島のど真ん中と言った具合の内陸の水系。市内を流れる北漢江にはどーんと水があったが、支流の沢は渇水で、竿も出してみたが魚のチェイスすらない。カワムツの群れが泳いでいるだけだった。

 その後も日本でやっているのと同じく、カーナビで川をチェックしては移動を繰り返しポイントを探したがどの川も渇水でだめ。そうこうしているうちに夜明けから8時間も経ってしまっていた。まずい、このままでは今日はノーフィッシュに終わってしまう。

 覚悟を決めてさらに東へ90分ほど行ったところにダムがあり、さらに上流にも流程の長い川があり標高の高い山の麓のポイントに急ぐ事にした。ここならある程度の水量は期待できるかもしれない....


 車を走らせ、ダムの上流になり川幅が狭まったところに差し掛かっても水量は申し分ない。さらに上流にいったところで広い公営の駐車場に車をとめ川をチェック。水流は緩やかではあるが、魚が泳ぐ際にできる波紋がときおり出来ている。「何かいる!」期待に胸を膨らませ入渓。

 一投目、いきなりチェイス!なにやらピンク色の魚体が?2投目もチェイス。3投目ようやくヒット!が、引きが強い!そしてジャンプ!でかい虹鱒だ!しかも50センチ以上ある!上流、下流へと引っ張りまわされようやくネットインへ、しかし、ルアーにネットが引っかかりフックオフ!!魚はゆっくりと流れに戻っていった。

 しばし呆然とする僕。なんらかの理由で放流されたのであろうが、まさか韓国のファーストヒットが虹鱒とは!


 「くそ〜!あのニジ獲りたかったな〜!」とぶつぶつ言いながらも気を取り直して釣り再開。するとすぐに数匹の岩魚に似た魚がチェイスしてきた!もしやこれは....

 その内の一匹がルアーを咥えた!ブラウントラウトに似た褐色の背中に黒い斑紋があるおちょぼ口の鱒。現地でヨルモゴと呼ばれるコクチマスだ。ユーラシア大陸に広く分布しており欧州ではレノックと呼ばれている。成長すれば50センチ以上にもなるらしい。

 これは嬉しかった!日本にはいない魚!韓国釣行で一番釣ってみたかった魚なのだ。

 その後も数尾のヨルモゴを追加した。ただチェイスしてくる割にあまり口を使わない。やや下向きに付いた小さめの口であることから、普段から底生のものを好んで食べていることが想像できたため、チェイスがあった際にラインを緩めて一旦ルアーをボトムに沈め、ボトムバンピングで喰わせるやりかたで数を伸ばすことが出来た。



 その後も釣り上がっていったがチャラ瀬になってしまったので最初に入ったポイントよりさらに下流に入りなおした。比較的水深のある場所でヒットしたのはまたもや虹鱒!「今度は必ずキャッチする!」と念じて冷静にファイトした。

 ファーストランは走られたが、今回は大き目の岩の上でのヒットだったので半ば強引にロッドを立て、魚に空気を吸わせることが出来て早めにランディングポイントに誘導して取り込んだ。スプリングネットが魚の重みでグニャリとなって焦ったが、最初の虹鱒より小さめではあったがまるまると肥えた綺麗な体色をした虹鱒だったので嬉しかった。


 夕方までヨルモゴに遊んでもらい、また2時間かけてペンションに戻ったら、隣の部屋の香港から観光に来ていた女性4人組とペンションオーナーのチョン氏がしゃぶしゃぶを作って出迎えてくれた。今日は満足のいく釣果も得られ、韓国ビールCass の喉越しも最高だった。明日はヤマメが釣りたい....宴の後はカーナビをこの日入った川の分水嶺の反対側にセットして就寝した。


 朝、4時過ぎに出発。昨日釣りした川の近所の道路には鹿が出てきており、この地方の自然の豊かさを感じることが出来る。念のためこの川の最上流で竿を出してみたがやはり釣れたのはヨルモゴだった。トンネルを抜け、つづら折になった道路を一旦下り、集落に出てそこから川沿いに上がっていく。さすが韓国髄一の紅葉スポットソラク山の麓だけあってものすごく美しい。

 見た感じ日本の渓相とそう違わない流れを選んで入渓。すぐに魚の反応があった。ヨルモゴにはない俊敏な動き。ヤマメだ!体色にサビは出ているものの、腹部は膨らんでおらず、やはり産卵はすでに終了しているようだ。

 あまりルアーを見たことが無いのか、次々とヒットする。現地でヤマメはサンチョノ(山の魚)と称されており、日本の呼び名と意味合いは似ているようだ。釣り上がり標高を上げていくに従い、水面を漂う落ち葉が目立つようになりミノーからスプーンに。ピュアシェルの赤金や黒金が非常に反応が良かった。わりとネチネチやったほうが反応が良い秋にスプーンの釣りはマッチしているようだった。

 3時半くらいまで釣り上がり、少し早いかなという感じではあったが、7時までにレンタカーを返却予定だったので納竿することにした。



 今回の韓国釣行ではフィッシングガイドは頼まず、いつも日本でやっているのと同様にカーナビの地図で想像してポイントを選択した。釣り場が韓国であったから可能でしたが、欧米の場合、川自体が私有地の中だったり立ち入り制限エリアが非常に多いのでやはり現地のコーディネーターを頼んだほうが無難だ。

 釣りは一に場所、二に場所....と言われる様にそのときのポイント選択が鍵になるから僕は普段から釣り場探しが釣りの楽しみの大半を占めている。よって、なるべく自分の勘を頼りにポイントを選択している。当たり外れが多いが、読みがあたった時の喜びはひとしおである。船の釣りでも船頭さん主導の釣りより、バス釣りなど自分でボートや魚探を駆使して考えてやるほうが好きだ。今回は初訪問で情報も少なかったが、外しは少なく当たりの方だったので凄く嬉しかった。

 また、コクチマスとヤマメの分水嶺が、自分が想像していたのはもっと内陸だったが、実際は雪岳山や五台山といったかなり東海岸に近い峰であったのを確認できたことも収穫が大きい。来年、韓国を訪れるなら同じ川ではなく、また違う川に新しい興奮を求めて釣行したいものである。


● 今回使用したタックル

ロッド BST−HM57UL/C プロトモデル
(2014年2月発売予定、本山博之氏監修の渓流ベイトフィネスロッド)
リール ABU Revo LTX
スーパーシャロースプール、マグネットブレーキ増設、セラミックボールベアリングに交換済
ライン モーリスメバルPE#0.4 にナイロンリーダーとしてサンライントラウティストUSC 6lb 約1ヒロ
ルアー D−インサイト53ピュアシェル5g など



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