冨安 隆徳

愛知県豊川市在住。ルアーで四季折々の魚を求め釣り歩く、アウトドアが大好きなサラリーマン。

主なターゲットは、九頭龍川の桜鱒、天竜川水系遠山川のアマゴ・イワナ等。


《 2015 神通川釣行記 その2 》


■ 次なる一尾

 GW連休後、下げ水のタイミングに釣行が重なり、幸運にも2尾の魚を獲ることができた。 次なるターゲットは神通川らしい大型。記憶に残る1尾と出会いたい。そんな思いで釣り場に立ったある日の夕暮れ。神通大橋下流右岸の馬の背から釣りを開始した。

 先行者から少し間隔を空け、神通大橋下流の流れの中に立ちこんでいった。ロッドは飛距離とパワー重視でIBXX-88MSD。ルアーはDEEP90。地形の変化、大岩や障害物の前後を意識しながらトレースし、中層を広範囲に探っていく。馬の背のブレイクは、深さや落ちこむ角度に違いはあるものの、JR橋脚まで延々と続いていた。流れの中のヨレを探りながら、馬の背の前にできた深場しっかりルアーを送り込む。ターンさせる角度や位置に変化を加えながら、特に大きな石が崩れたような変化のある場所は、舐めるようにゆっくりと誘っていった。


■ スリリングなファイト

 神通大橋下流は井田川からの分流と重なったのちに、徐々に開きながらJR橋脚に流れている。流芯は中州のある右岸寄りを通っており、魚は馬の瀬の付近のブレイクが遡上してくるのだろう。どこで喰ってもおかしくない1級ポイント。自由に釣り下れる喜びを噛みしめながら、流れを刻んでいった。しばらく釣り下ると馬の背は徐々に浅くなり、中洲のように水面に頭を出していた。覗きこむと馬の背からの急なブレイクは、鱒が身を隠すのに絶好の深場になっている。この深みに紫色のマジョーラカラーが艶めかしい新色、MZPPシェルのチェリーブラッドDEEP90を流し込んでいった。

 開きでも押しは強く、キャスト後すぐに流れを掴まないと充分に棚がとれない。しっかり中層に送り込みながら流れを横切らせ、中洲下流の深場でターンさせた時だった。押さえ込むような当たりとともにステラのドラグが唸るような悲鳴を上げた。「お!喰った。やっぱりここか!」魚は手前のブレイクを一気に下流に走っていく。逆引き状態で下流に突き出たテトラの前を流しているときのバイトだったため、ラインが巻かれてロッドが立てられない。腕を手前に突き出した不安定な体勢で魚を追うしかなかった。魚はすぐ下の深場で足を止めてくれたが、ラインがテトラの隙間に入り込みこのままでは一溜まりもない。覚悟を決めて沈みテトラに乗り、隙間に食われたラインを引き離しにかかる。

 不思議なことにこの時魚は暴れなかった。「運が良かった!こんなこともあるんだ。」そう思いながら安全な場所に誘導し、チェリーネットでランディング。スリリングなファイトで肝を冷やしたが、なんとか通算3本目の神通鱒を手にすることができた。長さは無かったが体高のあるいい魚。眼つきも精悍で恰好のいい魚であった。 




■ 悪循環
 5月中旬から釣果情報が届くようになった。遡上も本格化してきたようで、5本のリミットメイクが視野に入ってきた。このころからあれほど勢いのあった神通川の流れも本当に穏やかになり、流れや水深のあるポイントが少なくなってきた。天候も真夏のような日が続き、これまで以上にポイントの確保が難しく、思うような釣りができない状況が続いていた。

 朝寝坊の私はこの日も出遅れ、堤防から地元勢の釣りを眺めながら空くのを待った。彼らは魚のつきそうな1級ポイントのみをランガンしていた。地形や流れを熟知している彼らの後に、同じ攻め方をしても分が悪い。魚が当然入れ替わっているとは考えにくく、居たとしてもプレッシャーが掛っている。そこでいつものように竿抜けや攻め難いポイントはどこか?と考えた結果、JR橋脚前のブレイクが頭に浮かんだ。

 このブレイクは充分に水深があり、この地形が橋まで続いている。橋脚は人工の沈下物が沈んでいて流れに変化があり、魚をストックするのは充分な水深と環境があった。ただしいいトレースコースを引くには足場の悪いかけあがりを立ちこまなければならず、先行者もそこまでして釣りをしているようには見えなかった。釣り難さと回収時の根がかりのリスクに加え、万一掛けても流れに乗ってしまう危険もあるため優先順位が低いのだろう。

 そこで手つかずの釣り難いブレイクラインをフルダウンの状態で探ろうと、かけあがりのエッジまで立ち込み、ショートディスタンスで下流の怪しいポイントだけを攻めて行った。

 ルアーはチェリーブラッドMD90S スラッシュブルー。流れの当たる地形変化や、障害物のヨレにつく魚を誘うだけなので、あまり深く潜らせる必要はなかった。この状況で私が最も信頼するモデルがチェリーブラッドMD90Sである。流れに強く逆引きしても飛び出すことは無い。

流れに馴染ませながら流れの変化や大岩やストラクチャーの付近でターンさせて誘い、あとはゆっくりと舐めるように巻き上げていく。ターンまでは糸ふけを取るだけで、リップで流れを掴ませながらゆっくり泳がせる。速い流れにラインを取れないよう、ロッドティップは頭上高く掲げ、ひたすらルアーを見せることだけに専念する。

 橋脚まであと少しのところで流していたルアーの動きが止まり、明確なあたりとともにサクラマスがルアーを捉えた。魚は橋脚に向かって走る。ドラグも緩めに設定していたために、流れに乗った魚の走りを止めることができなかった。慌てて動きを抑えるためにドラグを締め込み、あとはロッドパワーで抑え込もうとした。行く手を阻まれた鱒は水面にその姿を現し、ローリングを始める。最悪の状態だった。足場も不安定なために動くことさえできず「まずい!」と思った瞬間、激しいローリングでフックが外れてしまった。  腹のフックが伸ばされていた。「折角腹を喰わせたのに!」しっかりと食わせたので無理なやり取りさえなければ獲れた魚であっただろう。ただあの状況で橋脚方向に下られては・・・・・。無理に走りを止めたのは良かったのか?自問自答しながら伸ばされたフックをしばらく見つめていた。

 攻め方は間違ってはいなかった。リスクの高いポイントだったのだ。そう自分に言い聞かせ、フックを取り換えながら気持ちを入れ替え、再びこの橋脚前を攻めることにした。


■ まさかの2本目

 場を荒らしてしまった感もあったが、流れも水深もあるのでまだ魚は付いているだろうと前向きに考え、さらに下流のブレイクを流し直した。ドラグは少し締め込み、最初の走りで糸を出され過ぎないように強めの設定で挑んだ。反応のあったMD90S スラッシュブルーを再び流れに乗せてタイトに送り込み、橋脚際の流れのよれで誘いを入れると、いきなり1投目から「ドン!」と大きな当たり。「え!」思わぬ早い反応に驚かされたが、今回は落ち着いていた。岸際のブレイクで喰ったようだが、この鱒は直ぐに走り出すことはなかった。底でローリングをしながら、時折短いダッシュで抵抗してくる。水中の障害物にラインを取られないように腕を前に突き出し堪えた。ジリジリとドラグは出るものの魚はすぐに浮上することなく、下流に走り出す気配も無く底に張りついた。暫くこのやり取りを続け、大人しくなったところを徐々にラインを回収しながら間合いを詰めていく。足元のブレイクまで寄せると白銀の魚体が確認できた。「大きい。」充分に65cmはあるだろうサクラマスだ。「獲った。」そう確信しながら、最後にロッドを立てて魚を浮かせようとしたとき、今まで綺麗な弧を描いていたIBXX−88MSDからテンションが抜けた。「あ!」魚は水中でしばらくローリングし、MD90Sとともに流れの中に戻っていった。PEラインのラインブレイクだった。

 ファイト中に何かに触れてしまったのだろうか?バイト直後の走りまではなんとか耐えてくれたものの、フィニッシュまでは持たなかったようだ。しかしあそこまで寄せてからとは・・・・。

 この日はことごとく運が無かった。キャッチできなかったことは本当に残念だった。しかし狙い通りのポイントで2度続けて魚を掛けたことは初めての経験で、改めてこの川のポテンシャルを再認識することとなった。折角のチャンスをものにできなかった勝負運の無さを痛感し、この負の流れを最期まで引きずったまま、結局私の神通川は終わりを迎えることになった。


■ 神通川 禁漁を迎え

 釣りは自然が相手であり、その年の遡上量や水位により釣果が左右されるのは仕方がない。2015年シーズンは高水と遡上の遅れからなのか?決していいシーズンであったとは言い難い状況であった。ただ魚が入った時の神通川のポテンシャルは相当のもので、その片鱗を垣間見ることはできた。海から遡上したての下流部の魚は、大胆な喰いっぷりで我々を迎えてくれた。プレッシャーの中で釣りをする九頭龍川とは対照的な活性の高さであった。

 今回初めて神通川を釣り歩き、この川のサクラマス釣りを少し理解できたと思う。残念ながらドラグが止まらないようなビッグファイトや、分厚い幅のある大型には出会えなかったが、その期待を抱かせてくれる川であることには間違いないようだ。

 いろいろな意味で多くの経験をさせてもらったこの川に感謝するとともに、現地で熱い多くの桜鱒釣り師との出会いと交流ができた、私の釣り人生の大きな節目となる釣行であった。


● マイタックル

◇ロッド スミス インターボロン IBXX−83・88MSD
◇リール シマノ ステラ 4000
◇ルアー スミス  チェリーブラッド DEEP90 MD90S MD90 MD80 MD80S SR90 SR90SS
B&Fリッパー(プロト) バッハスペシャルジャパンバージョン18g ピュア18g
◇ライン  ヨツアミ PE G-soul X8 1.2号
◇リーダー リーダー バリバス ナイロン 20LB
◇ネット  スミス チェリーネット サクラ(L)



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