冨安 隆徳

愛知県豊川市在住。ルアーで四季折々の魚を求め釣り歩く、アウトドアが大好きなサラリーマン。

主なターゲットは、九頭龍川の桜鱒、天竜川水系遠山川のアマゴ・イワナ等。


《 2016 九頭龍川釣行記 その2 》


■ 前半戦を振り返って

 好調の2016シーズン。3月中旬、増水後の下げ水に釣行が重なり、なんとか一尾を手にすることができた。好調な九頭龍川は3月に入ってもその勢いに衰える気配はなく、いよいよ中流域までがポイントになってきた。今年は60cm超えの大型が比較的多く、70cmオーバーの話もそろそろ聞こえてきそうだ。

 好調な釣果により釣り人は増加し、釣り下るローカルルールは過去のものとなりつつある。これまで少数派であったバイブレーションは、各社からのリースで今年は攻略の主軸になった。その一方でスプーンも見直され、重量級のルアーが多用されるようになったこともあり、ベイトタックルも珍しくなくなった。いろいろな意味で多様化が進んだ今年の九頭龍川である。


■ 前半最後の週末

 前回の釣果で早朝の釣りが苦痛にならなくなった。例年5月の連休の頃から早朝の釣りを開始するのだが、今年は3月中旬から既に夜明け前の起床があたりまえになった。4月末までは終日竿を振り続けるため、禁漁まで体が悲鳴を上げなければいいのだが。

 この週末も2日間の予定で福井入りし、アクセスの悪い中流域の右岸を足で稼いで釣りをした。夕まずめは上流にポイントを移したが、いずれも魚からの反応はなかった。活性の高い魚は既に抜かれ、水位低下で更に活性が下がったようだ。神通川で知り合った知人と偶然上流で再会し情報を交換したが、彼も「明日は下流域がいいだろう。」と意見が一致した。


■ 幸運な朝

 翌日は下流域で竿を出すことにした。日の出前から多くの車が川沿いに集まり、タフな釣りを予感させた。この日の釣り場は川通しで釣り下れる人気ポイント。薄暗い川原をインターボロンIBXX−83MSDを手にお目当ての瀬をめざす。

 このポイントは下流域で最も地形に変化があり、遡上してきた魚が溜まりやすい。明確な流芯に続くひらきと、左岸のテトラ帯に続く水深のあるトロ場には、多くの魚がストックされているに違いない。水位上昇でスイッチが入ると、この深場から上流をめざし遡上をすると考えている。

 人気ポイント故に夜明け前から行動しなければここには立てないと思い込んでいた。しかしこの日は様子が違った。すぐ上の橋のあたりに釣り人が集まっているようで、この瀬に人影は無かった。「ついている。」そう思いながら最下流の瀬のあたまに立ち、静かに日の出を待った。


■ 時を待つ

 水位は随分低くなっていた。速すぎず遅すぎない流れは、低水位が好みの私には好都合だ。幾筋も流れが重なる複雑な瀬の中に流芯が通り、ざわつく水面に僅かな鏡が出来ていた。水面の波紋で僅かな地形変化や沈下物の位置を確認し、流すラインをイメージしていく。

 この時期早朝から荒れた流れの中に魚が差しているとは考えにくい。魚がつくなら流れが穏やかな流芯際の還流帯か、ひらきのかけあがりだろう。瀬落ちの核心部はもう少し日が高くなり、早朝の冷え込みが和らいだころ攻めることにしよう。薄暗い時間は、敢えて瀬の地形変化や鏡をチェックし時を待った。


■ MD90S

 早瀬は水押しも強いため流れに強いチェリーブラッドMD90Sを選んだ。水深だけならMD90が丁度いい。ただ荒れた水面でのミスバイトを避けるため、動きが穏やかなMD90Sを選択した。また流れの中の魚は活性が高く表層で喰うことも多い。そのため潜り過ぎないようロッドティップを立てて、ゆっくり流すことを心掛けた。

 瀬を区切り、トレースコースに変化を加えてアプローチをしたが、流れの中にやる気のある魚はいなかった。やはりこの時期、早瀬は水温や気温が上昇する昼前後からなのだろう。


■ 攻め時

 瀬を釣り下るといよいよいい時間帯になった。気が付くと周囲に釣り人が増え始め、激戦区で釣りをしていることを実感する。ルアーは引き続きMD90S。アピールが強いチャートは今回もローテーションの最後に、ゴールド、パール、シルバーの順に魚からの反応を待った。

 キャスト後すぐに糸ふけを取り、流れに馴染ませ送り込んでいく。ここでも沈め過ぎないように注意しながらかけあがりを横切らせる。ここでは水深1.5mの地形変化についている活性の高い魚をイメージし、扇状にポイントを刻みながら攻め切り釣り下る。 かけあがりを丁寧に流すことだけを意識して流し始めた数投目。ダウン気味に流芯の先にキャストしたヤマメカラーは、強い流れを泳ぎ切りかけあがりで頭をこちらに向けた。ロッドを立て気味にゆっくりとリトリーブを続けると、10mほど下流で押さえ込むような当たりとともに竿先が引き込まれる。「来た!」ごねるようなサクラマスの特有の当たりの後、煽るような大きな首振りに竿が美しく弧を描いた。


■ 掛りどころ

 狙いどおり魚はいた。障害物はない。時間をかければ確実に獲ることができる。何度かロッドが絞り込まれたが慌てることはなかった。いなしながら距離を縮め手前まで寄せようとするが、浅瀬を嫌がり川底に張り付いたまま動かなくなった。「のんびりやろう。」そう思いながら適度なプレッシャーを掛け続けと、耐えきれなくなったのか一旦水面に顔をだし、首を振りながら流れに戻ろうと走り出した。この時嫌な感触がロッドに伝わり、ここから魚の動きが明らかに変わった。

 もっていかれそうな強い引きにラインが引き出されていく。ドラグに触れたのか?いや緩んでいない。違和感を覚えながら何とか寄せた魚を見て驚いた。顎のフックが外れ、リアだけがボディーに掛っているではないか。「え!外れたのか!身切れする!」危険を感じ直ぐにドラグを緩めた。持久戦を覚悟し、魚の激しい突っ込みをロッドや膝で優しく受け止めながら疲れを待った。下流の釣り人も私の不自然な動きに様子を伺いに来た。

 その後どれほど時間が経過したのだろうか。何度もラインを引き出されたが、ようやく疲れを見せて水面に浮いたところをチェリーネットで一気に取り込む。外れてしまう恐怖から解放され、ほっと溜息をついた。

 63cmの体高のある素晴らしい魚。今年はコンディションのいい魚が多い。ランディング直後の美しい姿を残そうと、朝焼けの残像が僅かに残る中で喜びを噛みしめながらシャッターを切った。




■ これからの九頭龍川

 好調な遡上が見られる今年の九頭龍川。しかし不安要素が無いわけではない。源流域の積雪やダムの水量だ。

 冬季通行止めの解放も早まり、渇水がいよいよ現実のものとなってきた。3月の福井の降水量は例年以上に少ないようで、個体数が多くても低水位では充分な遡上は期待できそうもない。水さえ確保されれば、今年の九頭龍川はこれまでにない凄いシーズンになりそうなのに。

 今はただ上流部に適度な雨が降ることを願わずにはいられない。


● マイタックル

◇ロッド スミス スミス インターボロン IBXX−83MSD
◇リール ステラ 4000
◇ルアー スミス  チェリーブラッド DEEP90 MD90S MD90 MD82 MD82S SR90 SR90SS
B&Fリッパ13g 16g バッハスペシャル18g ピュア18g
◇ライン  ヨツアミ PE G-soul X8 1号
◇リーダー リーダー バリバス ナイロン 20LB
◇ネット  スミス チェリーネット サクラ



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