冨安 隆徳

愛知県豊川市在住。ルアーで四季折々の魚を求め釣り歩く、アウトドアが大好きなサラリーマン。

主なターゲットは、九頭龍川の桜鱒、天竜川水系遠山川のアマゴ・イワナ等。


《 2017 九頭龍川釣行記 》


■ 迷い

 これまで20年以上サクラマスの釣りをしてきて、この釣りの厳しさと楽しさは解ったつもりでいた。諦めず投げ続ける精神力はこの川で鍛えられ、打たれ強さには自信があった。しかし今年、結果が出ない日々が続き、様々なことを考え過ぎるあまり、釣りそのものの楽しさや面白さを見失っていた。4月の半ばを過ぎ、まさに私はこの迷いの中にいたようだ。


■ 私の解禁

 2017年のシーズンインは、2月末。下流部のゆったりとした瀬で一日釣りをしたが、魚の姿を見ることはできなかった。全く反応が無かったわけではなかった。瀬の落ち込みと僅かな地形変化にできた弛みに、サラナMD110Sを送り込むと僅かなあたりがあった。一瞬首を振るような感触の後にフックオフ。昨年からスプーンと大型のミノーの可能性を探っており、この日唯一の反応があったのはトリプルフックを3本備えたヒラメ用に開発されたシンキングのミディアムディープ。流れに同調させながらドリフトさせ、中層に送り込んだ際にバイトしたようだ。ポイントや時期、流れの状況を考えるとサクラマスではないかと考えている。今年は開幕とともに50cmに満たない小型のサクラマスが報告されており、この魚が口を使ったのではないだろうか?


■ 今年の九頭龍川

 「今年の遡上はどうだろうか?」誰もが昨年並みの遡上を期待していただろう。解禁日こそある程度の釣果があったものの、その後は平年並みのようだ。3月に入ると釣果は上向き、現時点では2016年、2014年、2010年に続くまずまずの状況が続いている。

 平日にも多数の釣り人が訪れる昨今の九頭龍川。釣り人の数は以前とは比較にならない。漁協や各団体の努力で遡上数も増えているだろうが、釣り人に比例していると考えられなくもない。ともかくそれなりの釣果があったことは事実である。比較的安定した水位が保たれたことが主な要因だと思われるが、遡上を促す増水は無かったために中上流部への遡上は遅れ、下流域中心の釣果となったと考えられる。
 中上流の瀬の釣りを好む私は、「雨は何時降るのだろうか?」と未だ増水する気配のない川や天気を恨めしく思いながら、天気予報を眺める日々が続いていた。そうしているとあっという間に4月を迎えてしまった。4月下旬には田植えの準備が始まり、悩ましい減水と濁りの季節を迎える。私の中に少しずつ焦る気持ちが芽生え始めたのもこの頃だった。


■ 待望の雨

 その願いが届いたのだろうか?4月の第2週の週末前にまとまった雨が降った。この増水で遡上が進み、川はリセットされる。期待を抱きながら週末に釣り場に入った。
 サクラマスは増水からの下げ水が最大のチャンス。このタイミングで釣りができれば魚との距離は大いに縮まる。天気予報と水位情報から釣行スケジュールを立てるのだが、今回はいいタイミングで釣り場に入りことができた。水位は中角水位計で1mを少し切るまで下った。水押しは強いが笹濁りの下げ水の状況は大いに期待できる。当然河原には多くの釣り人が詰めかけ、これまで人影もまばらな中上流域も久し振りに釣り人で賑わっていた。魚が足を止めそうな勝負の速い有望ポイントは混み合っていたが、この状況は予想していた。魚が足を止めそうな流れの中で、竿抜けとなるいつものポイントに車を走らせた。やはりここは思ったとおり釣り人の姿はなかった。


■ 竿抜けポイント

 このポイントはトロ瀬で一見すると魚の着き場がわかりにくい。すでに今季は何度か事前に釣りをしているので流れのイメージは出来ている。底質は大きな石や沈みテトラがあり、ここに魚が足を止める。下流の分流から遡上してきた魚が身を寄せる深みや地形変化もあり、ポイントとしては申し分ない。このポイントが不人気なのは、背後の柳や手前の沈みテトラ。足場の悪さなど釣り人側の理由である。「キャスティング」「ルアーコントロール」「ランディング」のすべての難易度が高いことから込み合うことが少ないのである。釣り人が少ないということは当然魚へのプレッシャーは他のポイントよりも低い。早朝でなくてもチャンスのあるこのポイントが好きで、ここでしか味わえないスリリングなゲームを面白いとすら感じている。

 難しいが故に獲った魚の価値は私の中でも高く、足繁く通うポイントの一つ。この日はベストな水位よりも少し高めであったが、充分にチャンスがあるだろう。下流の瀬から遡上してきた魚たちは、浅く激しい瀬や激流の遡り、この緩やかな流れで一休みしたくなるはず。身を寄せる僅かな深みや大岩、障害物の前後を水面の波紋からイメージし、丁寧にチェックしていった。


■ ポイント攻略

 この日はトロ瀬の中でも流れが緩くなった瀬肩に潜む魚をターゲットにしていた。核心部は水深1m前後のゴロタ場で、岸際のテトラに沿って水中に沈みテトラと地形変化となる馬の瀬がこのポイントの核心部。水面の波紋やルアーから得られる情報を通じてコースを絞り込み、流れの勢いや水深に合わせDEEP、MDS、MDの順にレンジを合わせながらルアーを通して探って行く。 水深のあるトロ瀬では、表層の流れと中層以下の流速が違っていることが多い。手早く表層の流れを切って比較的ゆったり流れる中層に送り込み、魚にルアーをしっかり見せる。着水とともにロッドティップを高く保ち、表層の流れにラインを取られないように送り込む。素早くルアーの流れを掴ませたら流れに合わせティップを送り込み、底を叩かないようレンジコントロールをする。ルアーが水流を掴み更に潜ろうとするときは積極的に送り込み、魚の潜んで居そうなディープエリアに潜行させ、魚との距離を縮める努力を怠ってはいけない。

 この作業を繰り返しながらトレースラインに変化を加えてポイントを攻め切るとともに、流し終えた際にテトラ際に潜む魚の目の前を逆引きすることも忘れてはならない。ルアーが反転するときや、逆引きの状態になった時に魚のスイッチが入ることも多く、根ずれのリスクは高いがバイトの可能性は高まるはずだ。ここで喰わせてしまったときは、ランディングのリスクは高いのだが、手にしたときは忘れられない魚になるはず。大切なことは「大きさ」や「重さ」だけではない。一匹の魚との向き合い方であり、「記録」でなく「記憶」に残る一尾との出会いを大切にしている。


■ DEEP90を選択

 この日は水量,流速ともしっかりあった。まずは水噛みのいいDEEP90を選択し、濁りの入った水中での視認性を考え、チャートカラーから、パール系、ゴールド、シルバーといったようにアピール重視でメリハリのあるローションを意識し誘っていった。
 8時頃にポイントに入り、暫く釣り下がり探ってきたが、DEEP90のリップが底を叩く回数が多くなってきた。あまり底を叩くようでは潜らせ過ぎである。常に魚の少し上を引けるようティップの上げ下げで微調整し、ルアーを引くのではなく流れに同調させながら「流す」&「送りこむ」イメージで釣りを組み立てた。リップは深く潜らせるためではなく、ゆっくりと狙いのレンジに送り込むための大切なツールで、一旦沈めたら狙いのレンジをトレースすることに心がけている。


■ 悔やまれる一尾

 そろそろMD90Sにローテーションを考え始めていた時、送り込んだルアーが狙いのレンジに入った。手前の僅かな地形変化と沈みテトラの前を通し始めたときだった。ルアーを抑え込むような当たりとともに鱒がルアーを襲い、一気に下り始めた。「ジリジリ。ジー。」とラインがゆっくりと引き出され、ドラグが唸るような音を立てる。この日釣り場に持ち込んでいたのはインターボロンXX IBXX−77MSD。ラインはPE0.8号にナイロンの16LB。テトラを攻めるには少しショートでライトなタックル。魚からの反応が得られない期間が長かったために、今日は気分を変えようと操作性重視のタックルで挑んでいた。今思うとこの選択に迷いがあった。今年一番のコンディション。タックルで冒険する必要があったのか?今思うと残念で仕方がない。

 魚に無理なプレッシャーを与えテトラの前で暴れさせたくなかった。普段ならドラグを締め込むところを今回はそのまま走らせた。足場の悪いテトラに短いロッドでのやり取りは非常にスリリングで楽しかったが、この時全く不安は無かった。ほぼ15m以上もテトラの前を下られたが、主導権はこちらにあった。落ち着いてゆっくりと魚を5m手前まで寄せ、ランディングネットを用意するため背中のネットに手をやると、魚が水面に浮き上がりテトラの前でローリングを始めた。足場の悪いテトラの上だったので近寄ることもできず、大人しくなるまでロッドワークで耐えた。
 1年ぶりに見るサクラマスの姿は神々しく、白銀の魚体は光を受けて眩しかった。60cmは超えていた良型の魚の口には、チェリーブラッドDEEP90のニジマスカラーが掛っていた。今回もベリーのフックが蝶番にしっかり掛り、外れることはないと確認した。しっかり見せて喰わせているので当然と言えば当然なのだが、この段階で獲ったことを確信していた。

 「あとはフィニッシュだな。」そう思いながら魚が落ち着くのを待つと不意にテンションが抜けた。「え〜。何故だ!」ラインを回収すると抵抗がない。切れたのだ。「PEか?」「細すぎたのか?」確認するとなんとナイロン16LBのショックリーダーが切れていた。リーダーが擦れるような感触はなかった。根ずれに弱いPEならば納得はいくのだがリーダーとは。やりきれない思いに天を仰ぎ、その場にしゃがみ込んでしまった。せっかくのチャンスをモノにできなかった。タックル選択の迷いが残念な結果につながった。おそらくルアーを流している最中にショックリーダーに傷が入ったようだ。


■ 仲間の釣果

 この日は仲間もめでたく魚を掛け、彼は無事ランディングに成功した。やはりこの増水で魚の遡上が進み、下流域中心であった釣果もいよいよ8号線を越え、本格的に中流域の釣りがスタートした。これまで魚からの何の反応もない3月を過ごし、やっとの思いで掛けた一尾をランディングできなかったのは残念ではあったが、久しぶりのサクラマスの当たりとやりとりを楽しめたことと、仲間の釣果に「ほっこり」することができた週末であった。「次は獲るぞ!」そう思いながら岐路に就いた。


仲間のチェリーブラッドMD82 の釣果

下流で喰った空気を読めない本流イワナ?


■ 再び増水

 翌週 前半に大きな増水があった。今シーズン一番の増水となり、いよいよ遅れていた中上流部へ魚が差している筈だ。水位の低下とともに釣果情報が飛び込んできた。中流部を中心に良型が一気に遡上したようで、これまで沈黙を保っていた中上流部がにわかに騒がしくなってきた。私が釣り場に立つことができたのは、祭りのあとで水位が落ち着いた週末。僅かに濁りが残り水位は少し高めの状況だ。日出前に川には到着したが、河原には溢れんばかりの車で、釣り人の熱気を感じた。有望ポイントには複数の人影があり、今回も思うようにポイントに入ることはできなかった。そこで先週に先週魚を掛けたポイントに向かうと、竿抜けポイントと考えていたここにも先行者の姿があった。「みんなこの増水を待っていたんだな。」そう思いながらあちこち回ってみたが、魚が足を止めそうな流れや有望ポイントには入ることができず、僅かなポンスポットをランガンしていると午前中の釣りは終わってしまう。昼頃になると田植えの代掻き水が流入し濁り始め、水も徐々に下がり始めていった。結果を出せなかった午前の釣りにますます集中力を失いかけていった。


■ 心のリフレッシュ

 午前中思うように釣りが出来ない焦りを感じながら、ここは気分転換をしようと先輩方とゆっくり昼食をとることにした。いつもなら昼食は手短に済ませ、午後もすぐに釣りを始めるのが常だが、ここは悪い流れを断ち切ろうと心のリフレッシュをすることにした。
 この日は青空のもと、日本のルアーフィッシングやサクラマスの釣りの黎明期をリアルタイムで体験された先輩方のお話は非常に興味深く、釣りだけにとどまらず、食べ物、健康、その内容は多岐に亘り、楽しいだけでなく大変勉強になった。同じ釣りを愛する釣り人同士。話題は尽きず、もやもやとした気持ちは少し和らいだ。釣りだけに終始せず、仲間との時間を大切にしながら過ごす先輩方のスタイルに、自分の釣りを改めて振り返る良いきっかけになった。「結果を求めず、大好きなこの釣りをもっと楽しもう。」そんな心持に変わっていた。
 昼食会も3時を過ぎそろそろいい時間になったため、夕マズメのプライムタイムをどこで過ごそうか情報交換をしてお別れをした。


■ 再びあのポイントに

 この後まさかこんな結果になるとは思ってもいなかった。車を走らせながら釣り場の空き具合を確認し、結局車を止めたのは先週魚を獲り損ねたテトラ帯。この日このポイントを訪れるのは三回目。早朝は先行者で釣りを諦め、二度目の昼はひと流しし、三度目は4時にポイントに入ったものの、何か感じるものがあってすぐにここに入ることはしなかった。下流の勝負が速そうな落ち込みやぶっつけのピンポイントなどをひとと通り流した後、日暮前に入り直すことにした。結局下流のポイントでは何の反応も得られないまま、日が傾き始めた6時直前に今日最後のポイントであるテトラ帯に入ることにした。水位は朝から10cm以上落ち、狙いのレンジに送り込みやすくなっていた。6時を知らせる音楽が河原に流れるなか、西の空は徐々にオレンジ色に染まり始め日暮の時期を迎えていた。


 早朝押しの強かった1.5m程の水深の流れは、この時少し穏やかになっていた。狙いは前回同様手前5mほどの水中にある沈むテトラの附近。光量が抑えられたこの時間帯に下流から差してきた魚はいないか?そんな思いでチャート、パール、ゴールド、シルバーベースの順に流した。数回流しては少しずつ釣り下がり、ゲーム終了まで残り時間は30分を切っていた。ルアーはパールベースのチェリーブラッド DEEP90 ヤマメカラーを結んでした。しっかりと流れの中に送り込み、沈みテトラの前を流すイメージでロッドを立てて流し込んだ後に、ティップを上流側に倒し込みながらターンをさせ、誘いを入れる。すると小さなあたりがロッドに伝わった。


 すぐにその場で小さく首を振る動きを見せたが、すぐに下流に向かって走ることはなかった。「ウグイか?」サクラマスとしてもあまり大きくないことは直ぐに解った。残るは魚種の確認だけだった。前回のような失態は許されない。ラインの位置を確認しながら慎重に手前に寄せ、一段下がったテトラに乗り移りランディングの体勢に入る。魚は大きく暴れることなく、そのまま大人しく手前に寄ってきてくれた。サクラマスだ。刺激を与えぬように優しく立ち位置の上流側に誘導し、下流に準備したネットに流し込むようにランディング。

 今回は根ずれの心配もなく、安心して取り込めた。前回の教訓からメインラインはPE1.0号、ショックリーダーはナイロンの20lb。定期的にラインの傷をチェックしながらの釣りをしていたのでラインに不安は無かった。今回もベリーのフックを咥えており、狙い通り。52cmと良型ではなかったものの、気持ちを切り替えて臨んだ日没寸前になんとか結果が出た。やっと今年もこの魚に出会うことができた。




■ 釣りはメンタルなスポーツ

 夕マズメの時間帯までポイントを休ませたことはプラスに働いたと考えられる。恐らく私が入るまで2時間程度誰も釣り場に入っていないはずだ。静かな時間が続き、もともと居た魚の警戒心が夕マズメの訪れとともに薄れたか?それとも下流の遡上ルートの僅かな深みや物陰に潜んで居た魚がこの時間に遡上してきたのかもしれない。いずれにしても魚が喰ったのは岸際のテトラの手前5m。人の気配を感じることなくテトラ附近に潜み、素直にルアーに喰ってきたと思われる。私はと言えば、「釣りたい。」と思う強い気持ちは薄らいでいた。昼の気分転換で気持ちは和らぎ、私も魚同様素直な気持ちで釣りを楽しんでいただろう。

 思いが強過ぎると無意識にリトリーブが早くなり、アクションを加え過ぎることで魚に警戒心を与えてしまったり、狙いのレンジを外してしまったり。まさにその状況に陥っていた私を救ってくれたのは先輩方とのリフレッシュタイムだった。煮詰まった時にすべてをリセットする間や時合の大切さを感じさせられた瞬間であった。そんな貴重な体験をさせてくれた私にとっては価値のある52cmのサクラマスであった。


● マイタックル

◇ロッド スミス インターボロンXX IBXX−83MSD IBXX−77MSD
◇リール シマノ ステラ 4000 C3000
◇ルアー スミス  チェリーブラッド DEEP90 MD90S MD90 MD82 MD82S SR90 SR90SS LL90
DDパニッシュ 95F 80S
サラナ 95F 110F  MD110S
B&Fリッパ13g 16g ペイントモデル  シェルモデル
バッハスペシャル18g  ベイティス17・22g  ピュア18g
◇ライン  ヨツアミ PE G-soul WX8 1号 0.8号
◇リーダー バリバス ナイロン 20LB 16LB
◇ネット  スミス チェリーネット L
◇スナップ ルアーコネクター クロスロックスナップ #2



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