冨安 隆徳

愛知県豊川市在住。ルアーで四季折々の魚を求め釣り歩く、アウトドアが大好きなサラリーマン。

主なターゲットは、九頭龍川の桜鱒、天竜川水系遠山川のアマゴ・イワナ等。


《 2017 飛騨川釣行記 その5 》


【ランドロック系遡上鱒を求め】

 前回の釣行で幸運にも良型の遡上鱒を里川エリアで獲ることができた。そこで今回はもう1つのターゲットであるランドロック系の遡上鱒を求め、深夜の国道を上流部に向けて車を走らせた。
 狙いは40cmオーバーのランドロックの雄。垂れ下がった鼻に赤黒い体色で、思わず息を飲むような威圧感のある魚を手にしたい。2年前にその姿を目撃し、憧れ続けてきた魚だ。タイミングが合わないと姿を見ることも難しいのだが、この魚を針に掛けることは更にハードルが高い。ただ一旦脳裏に焼き付いてしまったこの魚を容易に諦めるわけにはいかなかった。この日から禁漁を控えたこの季節になると、僅かな確率を頼りに山深い渓を彷徨い歩いている。今年もその季節がやってきた。9月上旬の週末。いよいよランドロックを狙うため上流部に拠点を移すことにした。何の成果も得られずシーズンを終えた昨年だったが、今年は何か手掛かりを掴みたい。そんな思いで目的の渓を目指した。


【釣り場に独り】

 夜明け前に目的地に着くと、周りに釣り人の姿はなかった。泊まり込みでこの魚を狙う釣り人がいるだろうと少し早めに出発したが、幸いこの渓に私ひとり。どこでも攻められる状況に一瞬歓喜したものの、この時期に誰もいない不自然さが反対に不安になった。夜中の雨による増水を警戒したのか?川の状況が確認できない薄暗い山中で、一抹の不安を抱きながら身支度を整え、初めて入る流れに向かった。
 大いに期待して川に入ったが、やはり昨夜の雨で増水しているようだった。幸い上流域なので濁りは殆どないものの、岸際までしっかり流れる状況に、川通しで釣り上るには厳しい状況であった。せっかくのチャンスにこのエリアに入れない無念さを噛み殺しながら、やむを得ず廃道を更に数キロ歩いて下り、少し下流のポイントに入ることにした。


【ランドロック遡上鱒用タックル】

 ロッドはこの時期の定番であるインターボロンXX IBXX-60MT。この渓相であればもう少し短めの53〜56ftが一般的だろうが、渓流は長めが私の好み。狙うは遡上系の大型。千載一隅のチャンスを逃さないためにもバットパワーのあるこの60MTを愛用している。
 初夏のスモールプラグによるドリフトの釣りがメインであれば、魚のバイトを弾くことも少ないしなやかなマジカルトラウトMT-S56ULM/3を使うことが多い。しかしこの時期の擦れた大型には、大型プラグやディープのリアクションの釣りがメインになる。この釣りには少し張りがあり、アクションのつけ易い操作性の高いモデルが最適だ。IBXX-60MTはこの条件を満たしたロッドで、この竿にハイギアのコンパクトなC2500を合わせ、PE0.6号にフロロの8lbのラインシステムで積極的に仕掛けていく。


【イワナの渓】

 秋鱒の時期以外に入ることはないので平水がどの程度なのか定かではない。しかし岸際の様子から水量は多いように感じた。上流部らしく小さな落ち込みが連続し、白泡の多い流れだ。産卵を控えた魚たちが好む流れではなかった。適度な水深でゆったりとした流れを求め、ルア−を打ち込んでいった。穏やかな流れであればパニッシュ55SPやトラウティンウェイビー50Sなどで表層から中層をミノーで誘い、深みはお気に入りのジェイドMDでボトム附近にアプローチするのが普段の攻め方だが、今日は水に勢いがあるため積極的に沈めていくことを心掛けた。トラウティンウェイビー65S、AKM48、D−コンセプト48MDなどのヘビーシンキング系かDDパニッシュ65SPなどのディープをメインに釣り上って行った。
 水はさすがに冷たく13度。長く手を水に入れると痺れるほどの冷たさである。水温が低いのでイワナがメインで、アマゴの姿は殆ど見られない。漁協の監視員は「アマゴも放流しているよ。」と話していたが基本的にはイワナの渓だろう。この日も姿を見せてくれたのは20cm前後までのかわいいイワナ。入渓点から1時間ほど釣り上ったが大型の気配はなく、追いの少ない状況は昨年と同様であった。





【淡々と上流を目指す】

 しばらく鬱蒼とした森の中で厳しい釣りが続いたが、日が差す明るく開けた河原に差し掛かると徐々に魚の追いが見られるようになった。やはり少し開けた流れなのか?幾筋もの流れと岩が織り成す僅かな地形変化が、魚たちには居心地がいいのだろう。肌寒かった渓も、程よい陽射しに暖かささえ感じるようになった。気温の上昇も魚の追いに影響があるだろう。そう思いながら冷たい流れで汗を流し、緑の中でひと休みした。
 気が付くと車を止めた支流の流れ込みまではあと数百メートル。日も高くなり今日も終わってしまうのか?と考えながら釣りを再開した。明るく少し開けた流れは、緩やかで変化のあるものに変わり始めてきた。しかし反応してくるのは相変わらず小さなイワナたち。ただこの時期遡上系の大型は思わぬ浅瀬に潜んでいることがあるので油断はできない。相手に気配を察知される前にこちらが見つけないと手遅れなのだ。グラス越しに流れの中を注視し、僅かな動きや何か気配を感じた時は迷わずルアーを通していく。昨年も岩と勘違いして魚を深みに追い込んでしまった残念な出来事があった。その反省を踏まえ、周囲を充分見渡しながら静かに上流を目指した。


【ボトムノックスイマーU SWカラー】

 開けた明るい河原にやってきた。左岸の切り立った岩盤に流れが当たり、落ち込みながら岩盤の前に小さな淵を形成していた。適度な水深を備えた小淵の下流には、大きな岩が沈む二段の深瀬が続いている。まずは左岸の淵尻から深瀬までの流れを攻めていく。
 ルアーはウェイビー50Sのブルーピンク。アップで岩盤際の流れの中に打ち込み、一旦沈めてラインを張り、中層を流して反応を見ていく。するとまずまずのアマゴらしき魚が追ってきた。この時岩盤の対岸にできた砂利のかけ上がりのあたりで何か魚らしき生き物の気配を感じた。「何か居るのか?」そこでこのかけ上がりを少し沈めて探ろうと、送られてきたばかりのボトムノックスイマーU SWカラーのグリーンゴールドに結び替えた。少し上流の白泡の中に打ち込込んだ。

 ボトムノックスイマーUの動きは前回の釣行で確認はしていた。思ったよりも小ぶりでテールを振って泳ぐ姿は、タイトで擦れにくいルアーだなと思っていた。ここではボトム附近の地形変化に潜んでいるかも知れない魚に、ボトムバンピングさせながらダイレクトにアプローチしようと考えた。

 キャスト後一旦沈めてラインを張り、ボトムから跳ね上げた瞬間だった。いきなり何かが喰ってきた。魚は下流に走り、淵尻を超えて深瀬に逃げ込んだ。流れに乗ってそのまま次の落ち込みまで泳ぎ切ろうと必死に下っていく。最初はなにが喰ったのか理解できておらず、足元を下って行く魚を見て驚いた。「でかい!」ロッドを立て、更けてしまったラインを素早く巻き取っていく。落ち込みの手前で何とかラインを張ることができたので、下流に横たわる流木に逃げ込まれる最悪の事態は回避できた。しかし深瀬で行き場を失った魚は、流れの中で左右に走り回り暴れている。ラインを出せない状況で大型の遡上魚と増水した流れの水圧をバッドで耐えながら、後ずさりして流れを切って浅瀬に誘導していく。ボトムノックスイマーUのフックは、テールにトレブルが1本なのでフッキングが心配だったが、確認できる状況ではなかった。スプールを軽く押さえ、ゆっくり後退しながら浅瀬にズリ上げ、上からネットで覆い被せるように魚体を確保してランディング。
 流れの中で魚の気配を感じ、フォローで打ち込んだボトムノックスイマーUが引き寄せてくれた1尾であった。





【思い焦がれた一尾】

 魚は側面が薄ら赤く色付いた秋色の遡上鱒。全長40cmのランドロック系アマゴ(サツキマス)。迫力のある秋鱒というよりも、均整のとれたプロポーションの個体だった。顔つきから判断すると恐らく雌ではないかと思われるが定かではない。いずれにしても思い焦がれた魚であることに間違いはない。魚が弱らないように一旦ライブバックに収納し、更なる一尾を狙っていく。これまでも遡上系の大型はペアで流れの中にいることが多いので、雄が近くにいる可能性があるからである。周囲の流れを丹念に探ったものの、残念ながら雄の姿を確認することはできなかった。
 そこで先ほどの魚を手早く画像に残し、弱らないうちに流れの中に戻した。水温も低かったこともあり、撮影後も元気に流れの中に戻っていった。深みに消えていく魚影を追いながら、しばらくその余韻に浸っていた。


【ボトムトレースの可能性】

 ボトムノックスイマーUの釣果に触発され、ボトムトレースを意識した釣りを展開するなかで、興味深い反応があったので紹介したいと思う。実のところボトムノックスイマーUの使用回数があまり多くないので、自分なりの活用法がまだ定まってはいないのだが、着実に沈み、ボトム附近をトレースしながらの上下動と小刻みな動きを見て、ふとトラウティンサージャーが頭に浮かんだ。そこで翌日フロントにシングルフックを加え、アップで水深のある流れに一旦沈め、ボトムをドリフトさせながら僅かにロッドティップで躍らせて攻めてみた。

 流れの芯がはっきりと解る深瀬を、仲間が中層をミノーで先行し、私がトラウティンサージャーで後を追った。すると薄暗い流れの深場でのボトムトレースに大型のイワナが追ってくるではないか。先行者はそれなりに時間を掛け攻めていたので、同じ場所から魚の反応があることは極めて少ない。しかし存在感のある6cmのトラウティンサージャーのタイトな動きとフォールのバイブレーションが、場荒れした流れに潜む魚の警戒心を解いたのだろう。ジェイドMDSでも同様の感触を得ており、浮き上がりの少ない動きのタイトなシンキング系ルアーをラインの抵抗で底波に乗せて静かに流し込みながら、イレギュラーな一瞬の動きで活性の低い魚の口を使わせる。擦れた釣り場での私なりの攻略法になればと今後も試行錯誤を繰り返すつもりだ。今回はボトムノックスイマーUによる釣果から、新たなヒントが得られた有意義な釣行となった。


【これから】

 いよいよ2017年もフィナーレを迎えようとしている。今季幸運にも良型を2尾獲ることができた。2年前のあの美しい姿に魅せられ、追い続けた成果であることに間違いはないが、それが全てではない。現地で多くの釣り人と出会い、彼らとの交流があったからこそ出会うことができたと考えている。確率の決して高くないこの釣りが続けられるのも、同じ目的と価値観を共有できる仲間との出会いや夜のひと時があるからで、今や釣果よりも後者がメインになりつつある。この経験や見聞が釣り人して私を成熟させ、余裕を持って釣りに向き合うことができるようになるのだろう。しかし今はまだその途上。
 未だ手にしたことの無い本流とランドロックの超大型遡上鱒を、禁漁まで粘り強く追い続けるのだろう。


● マイタックル

◇ロッド スミス インターボロンXX IBXX-60MT IBXX-66MT
◇リール シマノ ステラ C2500HGS  C3000
◇ライン  DUEL HARDCORE X-FOUR PE 0.6号
よつあみ G-Soul WX-8 0.6〜0.8号
◇リーダー フロロカーボン 1.5〜2.5号
◇ルアー スミス  ボトムノックスイマーUSWカラー
チェリーブラッドDEEP70 MD82S MD82 MD75 MD70
ジェイドMD-F MD-SP MD-S MD-Sシェル
パニッシュ55F 55SP 70F 70SP DDパニッシュ65
トラウティンウェイビー50S 65S トラウティンサージャー6cm
AKM48メッキカマス
バルサハンドメイドミノー 50〜65mm F・SP・S
D−コンセプト48MD  D−コンタクト50・63 D−コンパクト48
D−インサイト44・53  D-ダイレクト55
バック&フォース 7g  バック&フォース ダイヤ 4・5g
ドロップダイヤ 5.5g  ピュア5g日本アワビ
◇スナップ スミス SP♯0



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