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池谷 成就
ルアーでのキャスティング、レイクトローリングを中心としたビッグトラウト狙いのエキスパート。
「かわせみ倶楽部」主宰。
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薪木のストックも底をつきそうな最近では稀な寒さも落着き、モノトーンの世界からちらほらと色がつきはじめた3月。群馬の渓流解禁から数日経た仕事の休日はバシャバシャと降りしきる雨に残雪が解け、道路も釣り場も冠水状態。渓流はどこも泥濁りで雪、氷、落ち葉が混じり濁流と化していた。そんな山のなかでもがき続けてみたものの釣れるはずもなく、とっておきの湧水隠し沢の一つにやむなく移動。
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一年を通して平均的に湧き出る水もこの日はゴンゴンと特別多く感じた。いつもならばすくいとって飲めるような流れの水も、岸辺の土や枯れ葉などを巻き込む濁りに変わっていたが、もしかしたら釣れるかもと希望を持たせてくれる濁りではあった。
しかし気温4℃の雪にならない、ぎりぎりの雨は雪より冷たく、耳隠しの付いた毛糸の帽子はズシリと重く、搾ぼれば大量の雨水が滴り落ちるほど濡れそぼっている。
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あえてフィッシングベストは着けずゴアテックスのカッパとやや防水性には欠けるものの綿入りの防寒パンツにスパイク付き長靴は、たまたま黒尽くめになってしまったため、熊が間違えて寄ってこないか、毛糸の帽子もグリーンだし、ネックウォーマーも白い柄がはいっているので、撃たれることもないだろうと、モチベーションが一向に上がらない自分を奮い立たせながらポイントに向かう。
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冷たくなってまともに動かなくなった指先ではルアー交換もままならないと思い、ルアーの付いたロッドを2本用意し、シンキングミノーとスプーンと特性の違うセットを用意した。
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冷たい雨は強く降りつづけ、寒さでいろいろなところが痛くなってきた矢先、細い流れが交わるちょっとした深みにルアーを振り込むと着水後1秒ほどの表層やや下でヒット。この釣れない苦しく寒い状況に、一気にテンションが上がりアドレナリンが体中を駆け巡る。半年ぶりの魚のファイトに対するやりとりも、自転車と同じで体が覚えていて難なくネットイン。尺いただきましたー!と体が訴えるが実際には1センチほど足りなかった。一切放流のない湧き水の細流に惚れ惚れするような天然ニッコウイワナ系統の魚体に感動する。よくぞ僕に釣れてくれた、ありがとう。
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その後はイワナ、ヤマメ、イワナ、イワナとヒットしてきたが、僕のなかではカウントできないほどの小ささに即リリース。
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とうとうこの湧き水天国も、まわりのから流れ込む泥水にまったく透明度がなくなり、2時間ほどの釣りタイムは終了。車に戻って窓ガラスに映った自分に驚いた。グリーンだった毛糸の帽子もずぶ濡れで黒っぽくなり、ネックウォーマーの白い柄は折り重なってまるで月の輪熊だった。濡れねずみが月の輪熊になって即刻温泉タイムへとなったのだった。
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● データ
群馬県吾妻漁業協同組合 日釣券1,000円
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